Header Image

日本語webフォントを使うにあたっての所感

普段、クライアントワークから自主制作まで制作において日本語のwebフォントを使うということがよくある。その際に、なるべく豊かな表現をしたいと思う。けれどもなかなかうまくいかない。それはなぜだろうか。各サービスの内部では、議論が行われていて日々改善がなされているのだと思う。
そういった循環の中で、1人のユーザーとしての考えを書くことで貢献できればと思う。
なるべく公共的な議論になるように心がけるが、内容はあくまでも個人的な所感として書いていく。(1ユーザーのサンプルとしても読んでもらえると思う)デザイナーやエンジニア向けの記事というよりは、趣旨としては長年日本語webフォントを使ってきた1ユーザーによる配信サービスやファウンダリに向けた感想という感じだろうか。

まずは、先人たちの努力によって数々の日本語のwebフォントの配信サービスが生まれて運営されてその上で、かつてはweb上では見ることができなかったものが見られるような状況になっていることに感謝をしたい。その上で、10年以上実務でwebデザイナーとしてそれらの変化を見てきてここは変わらないのはなぜだろうと疑問に思うことも多い。

初めに結論を書いておくと、現在webデザイナーが日本語書体を使う場合はかなりのパワーをwebデザイナー側に課しているのではないかと感じる。また、環境によってせっかく良い書体が開発されていても使えないということがとても多い。
基本的にはデザイナーに書体を売って収益を上げるのではなく、企業のプロジェクトに使われることでそれに対して課金をしていくのが理想だと思う。そのためには優れた書体を作るだけではなく、優れた配信環境とビジネスプラットフォームのデザインがセットで必要であると思う。

書体を使うプロセス

まず、書体をクライアントのwebサイトに使うとなった場合は、それが採用されるかどうかに関わらずFigmaなどのソフトウェアでレイアウトした状態でプレゼンをするというのが多くの場合である。デザイナーは、自身のPCにインストールされているものの中からプロジェクトに合うものを選択していく。その上で、FontplusやTypeSquareなどのwebフォント配信サービスにあるものという縛りもあるだろう。

企業向けにプレゼンテーションをするにあたって、ある書体を使いたいという状況でも例えば、モリサワの書体ならば、グラフィックデザイナー向けの年間6万円のプランを契約した上で(それが採用されるかもわからない)、さらに説得力のある資料などで実現までこぎつけ、クライアントにモリサワのwebフォントサービスであるTypeSquareを契約してもらう。
webデザイナーがなぜここまでするのかというと、なるべく良いもの、納得できるものを作りたいというのがあるだろう。しかし、これはwebデザイナー側に負担を押し付けすぎている状況ではないだろうか。例えば、欧文フォントであれば最近はトライアル版を配布していることが多く提案であれば大抵のものは使える状況になっている。webデザイナーは、あくまでも企業側への書体の使用の売り込みをしてくれる存在としてある。

そもそも、モリサワのMORISAWA Fonts(定額サブスクリプション)がグラフィックデザイナー向けの製品でありそこに相乗りする形で使っている状況があるが、そこに溢れているのだろう。グラフィックデザイナーにとって、そのデータを使って入稿できるようなフォントデータは資材であり、それを繰り返し使えることも含めて有用であるが、webデザイナーにとってデスクトップ上で使えるものはあくまでも仮の状態であって、実際に表示される場合はあくまでもwebフォントの形式のデータ(配信環境含め)なのでほとんど使えていないにも関わらず契約をしないと使えない。
(webで日本語の書体を使うには常に2重の課金タイミングがある、デスクトップ向けの定額サービスを契約し、次にwebフォントサービスを契約する)
会社によっては、MORISAWA Fontsを契約している場合もあるだろう。それは、グラフィックもwebもやる場合などそれがハマっている業態も多くあるが、例えば、他でType Projectなどを使いたい場合などとにかくキリがない。個人的には、webなどのオンスクリーンがメインの会社で全員にそれらの定額サービスを会社側で契約して渡すというのはもしあればすごいが強制、もしくは推奨できるようなものではないかなと思う。
個人的な思いを書くと、最近ファウンダリから発表される新書体というのはディスプレイ書体がメインで新しい本文用書体が開発されているのかが全く見えない。個人としては、新しい本文書体を開発しているところにお金を支払いたい。(脱線していますね)
また、せっかく大きな会社にwebフォントを使ってもらうことになってもType Sqaureのプランだとあくまでもビュー数がベースなので小規模なチームでも同じで勿体無いと思う。(Fontplusはアドバンスト・プランというのがある)大きな収益を上げている会社からは、それなりの課金がされるようなサービスデザインを作るべきだと思う。そのために、課金が大きいほどにより良くなるサービスを開発することも必要。この辺りはファウンダリが作るサービスと書体配信専門のサービスで使えるリソースの違いというのも加味するとなかなか難しいとは思う。

私の場合、自腹でモリサワ、TPコネクト、LETSなどを契約したり(解約したり、、)して凌いでいるがそれを同じような状況のwebデザイナーにこうしたら良いなどとは言えない。かなり、身を削ってなるべく書体を使えるように踏ん張っているが続けられるものではない。

Ancient_drawing01.jpg

配信環境

現在、webフォントサービスの中で一番使いやすいのが、Google Fontsだというのは多くの同意を得ると思う。実際、私もよく利用しているが不満点は全くない。多くの、サイトがNoto SansやNoto Serifであふれているがそれに対して批判的な気持ちはありつつも仕方がないという気持ちもある。
少し前に、AXISというType Projectが作った書体をwebで使うことになり(企業の使っていたフォント)配信サービスを探すと、REAL TYPEというサービスのみということもあり契約して使っているが、かなり使うのが難しい。また、一契約で登録サイトが3サイトという制限があるために、開発環境で当てるのに工夫が必要になる。また、SPAのサイトの場合、うまく表示されないことがある。(実装側の工夫でどうにかできる場合があるが、工数がかかる)この辺りは、他のwebフォントサービスでも同じだが、最近ではFontplusがアドバンスドプランで対応をしている。
Type Projectは高品質な書体が多くあるが、それをwebでうまく使うことは現状難しいと思う。それに対応する配信サービスがないからだ。
モリサワのTypeSquareについても同じで、対応書体は増えているが環境自体のアップデートがされていない。UIについてもずっと変わっていないように見える。(特段、使いづらいわけでもないがなぜ変えないのだろうか)

webにおける組版の仕様は年々良くなっていて、約物の詰めなども簡単なCSSで実装できるようになっている。この辺りは、単にサービスを提供するだけでなくwebにおける組版をどのように改善していくかという議論や、ユーザーに対する啓発や問いかけといったものも必要だと思う。合成フォントやvariableフォントなどの機能も今後より現実的に扱えるようになるかもしれない。そのためには、webの技術とフォントファイル自体の進化、(カラーフォント、バリアブルフォントなど)をセットで考え伝えていくような活動も必要である。タイポグラフィの知識や未来と、webにおける実装を横断的に考え、発信するような人材を育てるべきだしそのような人を大事にするべきである。

この辺りの、配信環境については私は詳しくはないので別に誰かが書いて欲しいが、SPAのサイトやブラウザの新しい仕様に合わせた配信サービス自体のアップデートがなければ、webサイト上で綺麗に書体を表示することは難しい。

配信サービスの契約

Adobe Fontsなども活発にいい書体があるが、クライアントワークで、使う場合はなかなか難しい。基本的に、webフォントサービスは、クライアントに契約をしてもらってそれを使うというのが良いと考えているからである。
Adobe Fontsは、契約者なら使えるサービスでwebでも使えるが、そのためにクライアントにAdobeを契約してもらうというのは変な気がする。貂明朝など使いたいものもあるので、他の配信サービスでもあると良いのになと思う。もしくは独立したadobeのフォントサービスとして、別で課金して使えるなど。

最後に

あくまでも、新しい書体が開発されて使われていく環境になれば良いと思う。そのためには、適切なタイミングで判断が行われ適切なタイミングで課金が発生するような優れた仕組みが必要だと思う。
こんなものがあったら良い、折衷案的なもので言うとwebデザイナー向けの安めのフォントを試すことができるプランがあるといいなと思う。Monotypeのものは、年間199ドルでライブラリにある書体を試すことができる。実際に製品に使う場合は別で書体を買う必要があるが、そういった形式はある種健全であると思う。Fontworksのmojimoはスポット的に試したい場合に、結構便利だったりする。
また、Figmaなどのソフトウェア上で使える書体が増えるのも良いと思う。あくまでも、レイアウト上で試せるだけなので、実際に使われる場合はそれぞれのサービス上で課金がされていく。
書体の品質と同じくらいそれを使うためのライブラリ管理ツールや、web上でのサービス提供をする管理画面のUIデザインも大切である。そこが使いやすいからその書体を含むサービスを使いたいと思うのはGoogle Fontsの例を見てもそうだがあり得ることだと思う。

私自身、ある特定の書体を使いがちと言う癖を十分承知しながら、なるべく現在進行形の書体開発に合わせた提案をしたいなと思い、さまざまなサービスを試している。
現在においては、優れた書体開発とセットで配信環境と、収益を得るビジネスプラットフォームのデザインが必要だと思う、それらが揃った時にせきを切るように新しい表現における空気や水として書体が時代を彩ることになるのだろう。

← BACK